cooleyes kidd
2009年08月01日
23:21
かわいらしい洋品店の角を曲がり、彼女はゆっくりと階段をおりた。
そうすると、ちょっと、広場らしいところに出る。
古びたレンガの壁にちょこんと、愛らしい目玉が二つきょろきょろしている。
あら、かわいい目玉のオブジェだわ。
彼女はそう思って、その目玉をつつくと、
「いてて、目をつつくなよ!」
と、頑丈そうな壁が震えた。
妄人だったらしい。
「ごめんなさい、まさか、妄人だと思わなくて・・・」
彼女がそう謝ると、壁男はがくっと、音をたてて、ひょいっと出てきた。
出てきた姿は、壁男というよりも、ブロックの塊に目玉と手足がついているので、ブロック男と呼びたくなる風体だ。
「まぁ、よくやられるから、あまり気にしてないよ」
ぼそぼそとしゃべる姿はかわいらしい。
「あ、もう、夜か!バイトに行かないと!」
「バイト・・・?」
「ああ、九龍大飯店で、俺、バイトしてるんだ!じゃあな!」
そういって、壁男はやや速足で歩きだす。
・・・・バイトしてたんだ・・・見たこともないけど・・・
彼女は首をかしげる。
いつも、一日に一回は帰っているが、みたこともない。
もしかしたら、妄人ゆえに時間間隔がすでに狂っていて、たまにしかでてこないのかもしれない。
・・・いや、もしかしたら・・・そういう性分の生き物かもしれない・・・。
ひょこひょこと、飯店とは逆方向に歩きだす彼を、彼女は止めもせず、小さな背中を見送った。
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