2009年11月07日
姑娘
「あら、こんなところにいたの」
いつもの路地を通り抜けようとしたとき、彼女は声をかけられた。
甲高い鈴の鳴るような声とはこのことだろう。
はっとして、振り返ると、小柄な女性が立っていた。
女性というよりも、少女というべきか・・・この街に溶け込むような漆黒の髪に、漆黒の中華服を着ている。
しかし、目はまるで切り子の硝子でもはめ込んだかのようにキラキラと光って、よく似合っている。
「露店にチャイナドレスを出しているのあなたでしょう?九龍大飯店にお客がきていたわよ」
「客・・・?」
「オートクチュールのチャイナドレスがほしいっていってたわ。針屋に頼みたいみたいだけど、姿が見えないって。
それでお鉢が回ってきたのよ」
露店はだしているものの、なんとなく、気恥しくて立ち寄っていない。
自分の作ったものに自信がないのだ。
なにしろ、あのお気に入りのトルソに服すら着せていないのだから。
チャンスなのか・・・それとも・・・
彼女の困惑顔を知ってか知らずか、彼女は
「じゃあ、伝えたわよ」
そう、かわいらしい声で言い、彼女にくるりと背を向けた。
彼女はとりあえず、九龍大飯店へ戻ることにした。
Posted by cooleyes kidd at 20:23│Comments(0)
│12 チャイナドレス