2009年06月13日
時刻(トキ)の止まった部屋 1
ここへ来るものはみんな同じような心持ちで来るのだろうか・・・
みにくるものは怖いもの見たさで足を踏み入れ、魅せられたものはそのまま帰ることを考えずにいつこうとする。
そんな場所なのだろうか・・・?
彼女はトランクを握りしめる。
「あの・・・ホテルはどこでしょうか?」
男はその言葉に怪訝そうな顔をして、
「ないな。ウチの二階で昔はやっていたが、今はもうしてない」
煙草の煙を見つめる。
「・・・・・」
うかつだった。
いくら常夜の島とはいえ、腰を落ち着けれる場所がなければ、どうしようもない。
彼女にはいくら恋焦がれた島とはいえ、そこいらで野宿をするような不用心なことはできないし、かといって、休
まずに動くこともできない。
「昔、ここで働いていたやつの部屋がまだ2階にある。きれいに使うなら、少しの間はいてもかまわない」
男はぼそりとつぶやく。
長い船旅で疲れ切っていた彼女はその言葉に甘えることにした。
二階への階段はひどく薄暗い。
階段を上り終えると、真っ暗中にドアノブだけが光って見える。
彼女は注意深く、そのドアノブへと進み、鍵を開けた。
部屋はデスクとベッド・・・ベッドの上の戸棚だけというシンプルなもので、壁もコンクリのまま。
女性が住んでいたのだろうか?
ハンガーにかかったスカーフ、飾られた写真、デスクの雑誌・・愛らしいシェル型、いや、ビートル型のライト・・・
小型の扇風機。
カレンダーは1997年5月22日で止まっている。
しかし、ほこりっぽくはない。
あの男・・・マスターは自分のようなものが来るたびに、この部屋を貸すのだろう。
デスクに座ると、急に眠気が襲ってきた。
彼女はデスクに突っ伏して、目を細める。
やっと来れた・・・。
傷だらけの指先を見つめ、満足そうにほほ笑む。
いけない、これで満足してはいけない。
始まったばかりなのだ。
まだ、することも、したいこともたくさん残っている。
でも・・・
今は・・・
彼女はゆっくりと瞼を下ろす。
すると、耳元で女性のひそやかな笑い声が聞こえた気がした。
Posted by cooleyes kidd at 15:41│Comments(2)
│1 九龍大飯店
この記事へのコメント
ぞくぞく
Posted by maikaz at 2009年06月15日 07:10
読んでいただき、ありがとうございます~
Posted by cooleyes kidd at 2009年06月17日 15:43