九龍裁縫屋

ほう、君はここへ来たばかりなのか・・・
なに？
ほうほう、君のように店を持たずに、商売をしようというものをここでは路人というのだよ。
何？
ふ～む、そうか、妄人になるのがこわいのか？
きにすることはないさ、そう簡単になれるもんじゃない。
現にこの島でずっと暮らしているものも多い。
何かに魅入られなければいいことだ。


妄人の割に香炉男は冷静にそう話した。
彼女はその言葉に耳を向けながら、平静を取り戻していく。


いろいろな人に会い、いろいろなことを聞くといい、ここへ来る以外にも邪気を中和する方法もあれば、
妄人にならずにいる方法もあるよ。


香炉男は思ったよりも饒舌に話してくれた。
彼女はまた、常夜の島へと歩き出す。

時折、耳の奥に残る女性の冷やかな笑みを思い出しながら・・・