2009年06月11日
流れ着く場所 ~プロローグ~
遠く、遠く、見知らぬ土地へと足を運べば・・
自分を知っているものはまずいない。
自分の国、
自分の名前、
自分の過去さえも消えうせる代わりに、
お気をつけなさい・・・
自分の姿すらも消えうせ、何かになることがあることがあるから・・・
自分を知っているものはまずいない。
自分の国、
自分の名前、
自分の過去さえも消えうせる代わりに、
お気をつけなさい・・・
自分の姿すらも消えうせ、何かになることがあることがあるから・・・
2009年06月11日
到着
自分を連れてきてくれた船の、遠ざかっていく汽笛を聞きながら、彼女は大きな異国の門に呆然と立ち尽くした。
昔の租界を思わせるような島、しかし、そこを上海や香港と定義するにはあまりにも雑多・・・
島からこぼれんばかりに立ち並ぶさびれた数々のビル群、
ビル群とは正反対の極彩色のネオン、
行き交う人々もさまざま・・・
常夜の夜の住人のための島。
彼女は西洋かぶれの自国に飽き飽きし、何気に新聞の小さな記事に載っていたこの島に恋い焦がれた。
恋い焦がれるだけで済んでいたうちはよかったが、ひょんなことからその島でつくられたシルクのチャイナドレスを
手にしたとき、彼女はため息をついた。
なめらかな生地の手触りだけでなく、自分にはないシルエットと、ライン・・・とても、自分では着こなせない。
しかし、あの島にはそれを着こなせる人々が住んでいるのだ。
そう思うと、いてもたってもいられなくなった。
無我夢中で独学で裁縫を学び、夜に刺し傷だらけの手を見つめながら、この島を思い続けた。
そして、やっと、それなりの技術が身に着いたとき、何もかもを金に換え、トランクに裁縫の道具だけを詰めて、
船に乗り込んだのだ。
「・・・・・」
http://slurl.com/secondlife/kowloon/146/17/24
昔の租界を思わせるような島、しかし、そこを上海や香港と定義するにはあまりにも雑多・・・
島からこぼれんばかりに立ち並ぶさびれた数々のビル群、
ビル群とは正反対の極彩色のネオン、
行き交う人々もさまざま・・・
常夜の夜の住人のための島。
彼女は西洋かぶれの自国に飽き飽きし、何気に新聞の小さな記事に載っていたこの島に恋い焦がれた。
恋い焦がれるだけで済んでいたうちはよかったが、ひょんなことからその島でつくられたシルクのチャイナドレスを
手にしたとき、彼女はため息をついた。
なめらかな生地の手触りだけでなく、自分にはないシルエットと、ライン・・・とても、自分では着こなせない。
しかし、あの島にはそれを着こなせる人々が住んでいるのだ。
そう思うと、いてもたってもいられなくなった。
無我夢中で独学で裁縫を学び、夜に刺し傷だらけの手を見つめながら、この島を思い続けた。
そして、やっと、それなりの技術が身に着いたとき、何もかもを金に換え、トランクに裁縫の道具だけを詰めて、
船に乗り込んだのだ。
「・・・・・」
http://slurl.com/secondlife/kowloon/146/17/24
2009年06月12日
九龍大飯店
彼女は異国へ来たことを痛感しつつ、その大きな門をくぐった。
極彩色のネオンと看板が彼女を迎える。
しかし、人影はない。
夜遅くの時間のせいか、それとも、この島にとっては早すぎる時間なのか・・・
彼女は目の前に広がる、まるで写真のような風景に見惚れながら、右手の大きな店へ足を向けた。
『九龍大飯店』
柱にかけられた看板の文字はすすけており、まず読み取れない。
しかし、上の大きなネオンの看板にはそうかかれている。
「いらっしゃい」
カウンター奥から、声がする。
しかし、客の気配はない。
「おや、新顔だね。ようこそ、kowloonへ」
店主はそういって、彼女を出迎えた。
スキンヘッドにやや青白い顔、片目を隠す眼帯が異質だが、kowloonではさほど珍しい人種とは思えない。
アジア系のややガタイのいい男性だ。
「はじめまして・・」
彼女は席に着くこともわすれて、店内を見渡す。
「観光・・・いや、この島にいつくつもりだね」
その男はつらつらと彼女のことをいいあてていく。
「なぜ、わかるんですか?」
彼女は恐る恐る言葉を口にする。
「さぁなぁ・・・カン・・・いや、なぜだかしらんが、観光するやつらは手ぶらでくる。永住するやつらはでっかい鞄
一個だけ抱えてくる奴が多い。そんだけの話だ」
男はそういいながら、タバコに火をつけた。
極彩色のネオンと看板が彼女を迎える。
しかし、人影はない。
夜遅くの時間のせいか、それとも、この島にとっては早すぎる時間なのか・・・
彼女は目の前に広がる、まるで写真のような風景に見惚れながら、右手の大きな店へ足を向けた。
『九龍大飯店』
柱にかけられた看板の文字はすすけており、まず読み取れない。
しかし、上の大きなネオンの看板にはそうかかれている。
「いらっしゃい」
カウンター奥から、声がする。
しかし、客の気配はない。
「おや、新顔だね。ようこそ、kowloonへ」
店主はそういって、彼女を出迎えた。
スキンヘッドにやや青白い顔、片目を隠す眼帯が異質だが、kowloonではさほど珍しい人種とは思えない。
アジア系のややガタイのいい男性だ。
「はじめまして・・」
彼女は席に着くこともわすれて、店内を見渡す。
「観光・・・いや、この島にいつくつもりだね」
その男はつらつらと彼女のことをいいあてていく。
「なぜ、わかるんですか?」
彼女は恐る恐る言葉を口にする。
「さぁなぁ・・・カン・・・いや、なぜだかしらんが、観光するやつらは手ぶらでくる。永住するやつらはでっかい鞄
一個だけ抱えてくる奴が多い。そんだけの話だ」
男はそういいながら、タバコに火をつけた。
2009年06月13日
時刻(トキ)の止まった部屋 1
ここへ来るものはみんな同じような心持ちで来るのだろうか・・・
みにくるものは怖いもの見たさで足を踏み入れ、魅せられたものはそのまま帰ることを考えずにいつこうとする。
そんな場所なのだろうか・・・?
彼女はトランクを握りしめる。
「あの・・・ホテルはどこでしょうか?」
男はその言葉に怪訝そうな顔をして、
「ないな。ウチの二階で昔はやっていたが、今はもうしてない」
煙草の煙を見つめる。
「・・・・・」
うかつだった。
いくら常夜の島とはいえ、腰を落ち着けれる場所がなければ、どうしようもない。
彼女にはいくら恋焦がれた島とはいえ、そこいらで野宿をするような不用心なことはできないし、かといって、休
まずに動くこともできない。
「昔、ここで働いていたやつの部屋がまだ2階にある。きれいに使うなら、少しの間はいてもかまわない」
男はぼそりとつぶやく。
長い船旅で疲れ切っていた彼女はその言葉に甘えることにした。
二階への階段はひどく薄暗い。
階段を上り終えると、真っ暗中にドアノブだけが光って見える。
彼女は注意深く、そのドアノブへと進み、鍵を開けた。
部屋はデスクとベッド・・・ベッドの上の戸棚だけというシンプルなもので、壁もコンクリのまま。
女性が住んでいたのだろうか?
ハンガーにかかったスカーフ、飾られた写真、デスクの雑誌・・愛らしいシェル型、いや、ビートル型のライト・・・
小型の扇風機。
カレンダーは1997年5月22日で止まっている。
しかし、ほこりっぽくはない。
あの男・・・マスターは自分のようなものが来るたびに、この部屋を貸すのだろう。
デスクに座ると、急に眠気が襲ってきた。
彼女はデスクに突っ伏して、目を細める。
やっと来れた・・・。
傷だらけの指先を見つめ、満足そうにほほ笑む。
いけない、これで満足してはいけない。
始まったばかりなのだ。
まだ、することも、したいこともたくさん残っている。
でも・・・
今は・・・
彼女はゆっくりと瞼を下ろす。
すると、耳元で女性のひそやかな笑い声が聞こえた気がした。
2009年06月16日
宥華国貨
どれぐらい経ったのだろう・・・?
彼女は首に軽い痛みを覚えて、デスクから起き上がった。
ベッドで眠ればいいものを、ついついこのデスクで眠ってしまったのだ。
あげくに、扇風機をつけっぱなしで眠ってしまったものだから、こめかみのあたりがずきずきする。
二日酔いのような不快感を感じながら、彼女はゆっくりと部屋をでて、1階のBarのほうへ下りて行った。
マスターはいない。
しかし、閉店中というわけではないらしく、九龍大飯店の戸は開け放たれたままだ。
不用心・・・しかし、ここの島では当然なのか?
あのマスターの来るものはこばまないような雰囲気からして、あっている気はした。
また、夜だ・・・。
彼女は店からでて、空を見上げる。
きらびやかなネオンと、それに負けないほどの明かりを放つ月・・・
おかげで、ここへきてどれぐらい経ったのかも、今日なのかも、明日なのかもわからない。
ただわかるのは、ここに自分がいるということだけ・・・
あこがれはあこがれのままで、来ないほうがよかったのだろうか・・・?
彼女はずきずき痛む頭を振りながら、なにげなく、九龍大飯店の古ぼけた隣のビルをみあげた。
「宥華国貨?」
http://slurl.com/secondlife/kowloon/151/71/23
2009年06月17日
電話男
「よお、ここは初めてかい?」
妙に陽気な甲高い声が彼女の背後でした。
振り返ると、今まで見たこともない生き物がそこにいる。
小さな黒電話の小人といったところだろうか・・・
驚きつつも、彼女はこれが話にきいていた妄人だと思った。
「そこはいわゆるフリーマーケットさ。この島のオーナーが気に入った商品をおいてくれるのさ。商売人とか、
とりあえず、ここで商売してみようかってやつらがおいてもらってるんだよ」
電話男は驚かれたことなど全く気にせずに話を続ける。
「そこの入ってすぐの端末で出店のこといろいろ教えてくれるよ~」
「はぁ・・・」
妄人とは・・・この島独特のもので、物にずっと思いを抱き、妄想を抱き続けた人々がその物になってしまう
という物と人との中間のものらしい。
しかも、この妄想が途切れた時・・・妄人は本当の物になってしまうという。
「なんだよ~妄人をみるのははじめてかぁ~?そんな憐れんだ目でみてほしくないなぁ。君たちは食べなきゃ
いきてけないが、妄人は妄想だけでいきてけるんだぜ~いいだろうがぁ~」
電話男はそう言って、彼女を見上げる。
たしかに、話に聞いていたよりもひどい状況とは思えない。
カエルのような愛らしい目に、伸びた手足はどことなく、ぬいぐるみや人形のようでもある。
「ふふふ、俺はさぁ~黒電話が好きなんだ。きちんとダイヤルをじ~じ~って回すやつさぁ~あれじゃなきゃ、
電話じゃないね。ふふふ、この黒光りがたまらないよ。やっぱり、電話は黒だね。電話の声もいいよね。顔は
まずまずだっても不思議といい声をしたヤツは多いもんさ、味があるってのかな」
電話男は自分の体を彼女にみせつけながら、そう語った。
妙に陽気な甲高い声が彼女の背後でした。
振り返ると、今まで見たこともない生き物がそこにいる。
小さな黒電話の小人といったところだろうか・・・
驚きつつも、彼女はこれが話にきいていた妄人だと思った。
「そこはいわゆるフリーマーケットさ。この島のオーナーが気に入った商品をおいてくれるのさ。商売人とか、
とりあえず、ここで商売してみようかってやつらがおいてもらってるんだよ」
電話男は驚かれたことなど全く気にせずに話を続ける。
「そこの入ってすぐの端末で出店のこといろいろ教えてくれるよ~」
「はぁ・・・」
妄人とは・・・この島独特のもので、物にずっと思いを抱き、妄想を抱き続けた人々がその物になってしまう
という物と人との中間のものらしい。
しかも、この妄想が途切れた時・・・妄人は本当の物になってしまうという。
「なんだよ~妄人をみるのははじめてかぁ~?そんな憐れんだ目でみてほしくないなぁ。君たちは食べなきゃ
いきてけないが、妄人は妄想だけでいきてけるんだぜ~いいだろうがぁ~」
電話男はそう言って、彼女を見上げる。
たしかに、話に聞いていたよりもひどい状況とは思えない。
カエルのような愛らしい目に、伸びた手足はどことなく、ぬいぐるみや人形のようでもある。
「ふふふ、俺はさぁ~黒電話が好きなんだ。きちんとダイヤルをじ~じ~って回すやつさぁ~あれじゃなきゃ、
電話じゃないね。ふふふ、この黒光りがたまらないよ。やっぱり、電話は黒だね。電話の声もいいよね。顔は
まずまずだっても不思議といい声をしたヤツは多いもんさ、味があるってのかな」
電話男は自分の体を彼女にみせつけながら、そう語った。
2009年06月18日
雑居ビル
「まぁ、ついておいでよ。案内してやるからさ」
電話男はひょこひょこと、歩きながら、彼女を中へと促した。
入った途端、目に飛び込むのが商品の数々、物から、服から、とにかく、あふれんばかりに並べられている。
「あ~これさ。この端末。出せるものがあるなら、とりあえず、申し込んでみろよ。この島にあってるものなら
大抵おかせてくれるぜ」
電話男はちかちかと点灯する古びた端末を指さした。
彼女は電話男に言われるままに、端末へと手をのばす。
まだまだ、納得のいかないものではあるけれど・・・
出して、人に見てもらい、確かめてもらわねば・・・自分はここで店を出すこともできない。
そう思いながら、端末に情報を入力し、自分の服の写真を添付した。
「ほほ~服か~いいねぇ~。おれもこんな体じゃなきゃ、しつらえてもいいなぁ」
電話男はそう言いながら、ほほ笑んだ。
ビルの中は地下一階から、地上二階までの3階構造になっており、2階はすべて床が網になっている。
高所恐怖症には耐えれないだろうなぁ、
と、彼女は見上げながら思う。
電話男に案内されながら、歩きまわると、商品の多さもさることながら、安価なものが多いことにも気づく。
「とりあえず、ここの雰囲気を知りたいとか、相場を知りたいってときにはここを見るのが一番さ」
電話男のおかげで、少しだけ気分が彼女は軽くなった。
電話男はひょこひょこと、歩きながら、彼女を中へと促した。
入った途端、目に飛び込むのが商品の数々、物から、服から、とにかく、あふれんばかりに並べられている。
「あ~これさ。この端末。出せるものがあるなら、とりあえず、申し込んでみろよ。この島にあってるものなら
大抵おかせてくれるぜ」
電話男はちかちかと点灯する古びた端末を指さした。
彼女は電話男に言われるままに、端末へと手をのばす。
まだまだ、納得のいかないものではあるけれど・・・
出して、人に見てもらい、確かめてもらわねば・・・自分はここで店を出すこともできない。
そう思いながら、端末に情報を入力し、自分の服の写真を添付した。
「ほほ~服か~いいねぇ~。おれもこんな体じゃなきゃ、しつらえてもいいなぁ」
電話男はそう言いながら、ほほ笑んだ。
ビルの中は地下一階から、地上二階までの3階構造になっており、2階はすべて床が網になっている。
高所恐怖症には耐えれないだろうなぁ、
と、彼女は見上げながら思う。
電話男に案内されながら、歩きまわると、商品の多さもさることながら、安価なものが多いことにも気づく。
「とりあえず、ここの雰囲気を知りたいとか、相場を知りたいってときにはここを見るのが一番さ」
電話男のおかげで、少しだけ気分が彼女は軽くなった。
2009年06月19日
素敵な家具屋
不思議、だいぶ、楽になった。
頭痛が和らぐのを感じながら、彼女は目を細める。
「だいぶ慣れたか?kowloonは邪気が強いところがあるからなぁ、慣れるまでに時間がかかる」
電話男はまだ彼女を案内するつもりらしく、これまたひょこひょこと歩きだす。
彼女はおせっかいな電話男の後についていった。
『造隆家具中心』
目に痛いほどの紅色の看板がかかげてある。
中に入ると、所狭しと中華っぽいテーブルや椅子、いわゆる、家具が並べられている。
壁にはお札も貼られており、これも売り物らしい。
「ここはいいぜぇ~安いし、商品も確かだ。お店やマンションを借りたら、買うといい」
しかし、電話男の説明を聞きながらも、彼女は別のものに目を奪われていた。
http://slurl.com/secondlife/kowloon/148/85/23
頭痛が和らぐのを感じながら、彼女は目を細める。
「だいぶ慣れたか?kowloonは邪気が強いところがあるからなぁ、慣れるまでに時間がかかる」
電話男はまだ彼女を案内するつもりらしく、これまたひょこひょこと歩きだす。
彼女はおせっかいな電話男の後についていった。
『造隆家具中心』
目に痛いほどの紅色の看板がかかげてある。
中に入ると、所狭しと中華っぽいテーブルや椅子、いわゆる、家具が並べられている。
壁にはお札も貼られており、これも売り物らしい。
「ここはいいぜぇ~安いし、商品も確かだ。お店やマンションを借りたら、買うといい」
しかし、電話男の説明を聞きながらも、彼女は別のものに目を奪われていた。
http://slurl.com/secondlife/kowloon/148/85/23
2009年06月20日
トルソ
綺麗・・・。
店の入り口に売られているトルソ。
さびが入ったものと、普通のものが売られている。
家具屋の売り物にしては、珍しいものだ。
何の服でもきこなせそうな、女性らしいフォルム・・・しかし、グラマラスな女性ではなく、スレンダーな風でもない
中肉中背、黄金律というべきか・・・まるで、モデルか、ダンサーか・・・そんな感じのトルソだ。
彼女がそっと、さび入りのものに触れると、かすかにほの温かく感じた。
いいわ、これ・・・ほしい・・・
彼女は店を構えたら、これを絶対に買おうと決めた。
でも、人に買われてしまったら、どうしよう?
今、買っておくべきなのかしら、でも、置く場所がないわ。
さすがにあの部屋においておくわけにもいかないし・・・・
トルソを前に、彼女は顔をゆがめる。
どうも、悩み出すと、そういう顔をするタチらしい。
「安心しろよ、そいつならいつもあるぜ」
電話男は彼女に気づいてそう呟く。
「でも・・・」
「大丈夫だって!ずっと住んでるおれがいうんだから!ほら、ほかにいこうぜ」
電話男は彼女の手をひっぱって、トルソからひきはなす。
彼女は背後で女性の密やかにほほ笑む声をきいたきがした。
2009年06月21日
kowloonの不動産事情
「部屋や店を借りるならこっちだよ」
電話男はそう言って、彼女を案内した。
インフォメーションのノートカードをもらい、webで調べてみると、貸室というマンションの部屋の空きはそこそこ
あるものの、さすがに店のほうは借り手が多いらしく、全く空きはない。
「あ~ここで店をするのはかなりな人気だからな。店の空きがでたり、借りれる店ができても、抽選なんだ」
とりあえず、マンションを借りるべきだろうか?
いや・・・何もかもうっぱらって来たとはいえ、手持ちの金にも限りはある。
ここは飯店のマスターに甘えて、服を作るのに専念して、機会を待とう。
フリーマーケットの件もあるし・・・たしか、露店があるとも聞いている。
それに・・・
あの・・・トルソに着せるような服も作りたい・・・
「あの・・・そろそろ、飯店のほうに戻ります」
「お、そうかい?わかったよ、よかったら、また声をかけておくれよ」
電話男はこれまた陽気にそう言って、飯店の前まで送ってくれた。
http://slurl.com/secondlife/kowloon/144/83/24
2009年06月22日
夢見るトルソ
また・・・デスクで寝てしまった。
しかし、彼女は今回は満足だった。
もう少しで、新しいチャイナドレスが仕上がりそうなのだ。
ああ、素敵・・・あと、金の刺繍を縫うだけだわ。
熟練の針人が見たら、笑われるだろうけれども、彼女はかなり満足な出来の服に笑みをこぼす。
でも、あのトルソがいいわ。
あれに着せたい。
そう思いながら、彼女は1階のBarのほうへ降りた。
マスターはまたいない。
しかし、初めて、店に客らしき女性がいた。
2009年06月23日
物憂げな女
初めてみた客は女性だった。
彼女よりも浅黒い肌は健康的で美しく、細い指は特にキセルがよく似合う。
漆黒の美しい髪もいい。
「そう、服屋をしにきたの・・・」
ふうっと、口から吐き出される紫煙が独特の香りを運ぶ。
「でも、人でいたいなら・・・根をつめてはだめよ・・・」
「え・・」
「電話男をみたでしょう?この島は特別だから・・・妄人になってしまうわ」
黒髪の女性は彼女の顔をみつめる。
「私は大丈夫です。まだ、お店の算段もしていないし、物には固執してませんし・・・」
彼女は微笑む。
「・・・・知らないうちにってこともあるわ。電話男だって、最初は普通の男だったわ。」
黒髪の女性はさびしそうにつぶやいた。
「みんな、妄人になるまえは普通・・・いえ、思いもよらぬほど人だった。妄人になって、次には物言わぬ物
になってしまうのよ・・・私の友達も人間だったわ。手足の細いモデルをしていたわ。でも・・・今じゃ、造隆家
具中心で売られている・・・そういうものなのよ」
青龍路にいってみるといい・・・
黒髪の女性はうつむきがちにそう呟いた。
彼女よりも浅黒い肌は健康的で美しく、細い指は特にキセルがよく似合う。
漆黒の美しい髪もいい。
「そう、服屋をしにきたの・・・」
ふうっと、口から吐き出される紫煙が独特の香りを運ぶ。
「でも、人でいたいなら・・・根をつめてはだめよ・・・」
「え・・」
「電話男をみたでしょう?この島は特別だから・・・妄人になってしまうわ」
黒髪の女性は彼女の顔をみつめる。
「私は大丈夫です。まだ、お店の算段もしていないし、物には固執してませんし・・・」
彼女は微笑む。
「・・・・知らないうちにってこともあるわ。電話男だって、最初は普通の男だったわ。」
黒髪の女性はさびしそうにつぶやいた。
「みんな、妄人になるまえは普通・・・いえ、思いもよらぬほど人だった。妄人になって、次には物言わぬ物
になってしまうのよ・・・私の友達も人間だったわ。手足の細いモデルをしていたわ。でも・・・今じゃ、造隆家
具中心で売られている・・・そういうものなのよ」
青龍路にいってみるといい・・・
黒髪の女性はうつむきがちにそう呟いた。
2009年06月24日
スキマの場所
青龍路は不動産屋と古びた一人乗りの飛行機が売られているところの間の通りだ。
目の錯覚なのか、それとも、本当にそうなのか・・・ほかのとおりに比べて、小さく狭く感じる。
メインストリートに一番近いshopの通りでありながら、見逃してしまいそうなほどわかりにくい場所だ。
・・・ここに・・・なにがあるの?
彼女はそう思いつつ、その通りへはいった。
やや薄暗いシャッターの通り入っていくと、右手にはヒゲ抜き屋、左手には形象公司という古物商があった。
ヒゲ抜き屋はどちらかといえば、医務室を思わせるような風で、自動のモップがせわしなく、床を掃除している。
なぜか、中華風のラジオなどが売られているのが見えた。
しかし、人の気配はない。
形象公司のほうも、商品が古物商にしては整然と並べられているものの、人の気配がない。
なんだか・・・不思議・・・
開店休業状態なのか、たまたまなのか、彼女は首をかしげつつ、奥へと入っていく。
目の錯覚なのか、それとも、本当にそうなのか・・・ほかのとおりに比べて、小さく狭く感じる。
メインストリートに一番近いshopの通りでありながら、見逃してしまいそうなほどわかりにくい場所だ。
・・・ここに・・・なにがあるの?
彼女はそう思いつつ、その通りへはいった。
やや薄暗いシャッターの通り入っていくと、右手にはヒゲ抜き屋、左手には形象公司という古物商があった。
ヒゲ抜き屋はどちらかといえば、医務室を思わせるような風で、自動のモップがせわしなく、床を掃除している。
なぜか、中華風のラジオなどが売られているのが見えた。
しかし、人の気配はない。
形象公司のほうも、商品が古物商にしては整然と並べられているものの、人の気配がない。
なんだか・・・不思議・・・
開店休業状態なのか、たまたまなのか、彼女は首をかしげつつ、奥へと入っていく。
2009年06月25日
鍋男
どんどん進んでいくと、屋台と茶店の間のような場所にでた。
シンプルといえば聞こえはいいが、どこか、ぞんざいなテーブルとイスがしつらえており、テーブルには
豚足の煮たのや、中華まんじゅう、闇鍋とかかれた鍋もある・・・。
無造作におかれた、ドラム缶、neokowloonnetの端末も置かれている。
メニュー表をみると、たくさんメニューがあるようだが、彼女には異国の言葉でかかれたメニューは読む
ことができなかった。
黒髪の女性はここのことをいったのだろうか・・?
妄人らしいものはいない。
いや、もしかしたら、kowloonの道は入り組んでいるゆえに間違えたのかもしれない。
もっと、奥へ進んでみるか・・・
そう思いかけた時、端に大きなボイラーのような圧力なべのようなものを見つけ、なにげなく、触れそう
になった。
「おい、あんた!触ると火傷するぞ!」
その鍋はそう大声で彼女を叱った。
「す、すみません・・・」
確かに湯気は黙々と上がっており、中には真っ赤な何かが煮えている。
「まったく、その白魚のような手を焦げ付かせたくないなら、不用意になんでも触るもんじゃないよ」
その鍋は今さっきの荒げた声とは思いもつかぬほど、やさしく渋い声を出した。
「はぁ・・・」
妄人だ・・・
電話男はまだ人の形を少しは残していたものの、この妄人はすでに人の姿を失っている。
ただの鍋がど~んと置かれているのだ。
「俺は鍋男、今じゃこんななりだが、昔はここの店主さ。うまいものをだすってんで、盛況だったんだぜ」
鍋男は自慢げにそうかたった。
「ああ、今だってその煮猪脚をつくったとこさ、食べてみろよ」
人当たりのやさしい男だったのだろうと、彼女は思った。
http://slurl.com/secondlife/kowloon/111/74/24
シンプルといえば聞こえはいいが、どこか、ぞんざいなテーブルとイスがしつらえており、テーブルには
豚足の煮たのや、中華まんじゅう、闇鍋とかかれた鍋もある・・・。
無造作におかれた、ドラム缶、neokowloonnetの端末も置かれている。
メニュー表をみると、たくさんメニューがあるようだが、彼女には異国の言葉でかかれたメニューは読む
ことができなかった。
黒髪の女性はここのことをいったのだろうか・・?
妄人らしいものはいない。
いや、もしかしたら、kowloonの道は入り組んでいるゆえに間違えたのかもしれない。
もっと、奥へ進んでみるか・・・
そう思いかけた時、端に大きなボイラーのような圧力なべのようなものを見つけ、なにげなく、触れそう
になった。
「おい、あんた!触ると火傷するぞ!」
その鍋はそう大声で彼女を叱った。
「す、すみません・・・」
確かに湯気は黙々と上がっており、中には真っ赤な何かが煮えている。
「まったく、その白魚のような手を焦げ付かせたくないなら、不用意になんでも触るもんじゃないよ」
その鍋は今さっきの荒げた声とは思いもつかぬほど、やさしく渋い声を出した。
「はぁ・・・」
妄人だ・・・
電話男はまだ人の形を少しは残していたものの、この妄人はすでに人の姿を失っている。
ただの鍋がど~んと置かれているのだ。
「俺は鍋男、今じゃこんななりだが、昔はここの店主さ。うまいものをだすってんで、盛況だったんだぜ」
鍋男は自慢げにそうかたった。
「ああ、今だってその煮猪脚をつくったとこさ、食べてみろよ」
人当たりのやさしい男だったのだろうと、彼女は思った。
http://slurl.com/secondlife/kowloon/111/74/24
2009年06月26日
鍋男の悲哀
彼女は朝食もまだだったので、その店で鍋男と話しながら、まんじゅうなどをつまみだした。
確かに味はいい。
ふかふかしたまんじゅうの皮、汁気たっぷりの餡もたまらない。
「えへへ、そんなにうまそうに食べてくれるお嬢さんは久々だなぁ~作りがいがあるってもんさ」
鍋男はそういって、体を揺らして笑った。
「まんじゅうや、煮猪脚をつくるなら、人間の姿のほうが楽ではないのですか?」
彼女はまんじゅうを食べる手を止めた。
「それがよお、商売がうまくいきはじめたときにいい鍋を買ったのさ。熱すりゃ、すぐにあったまるし、
温度管理も自由自在。なんてったって、思い通りの味以上のものをつくってくれるいい鍋だったんだ
よ。でもよ~こともあろうに、壊れちまってね。新しく違うのを買ってみたものの、うまくつくれないんだ
よ。こまってね~こまってね~、あの鍋がまたほしいってずっとおもってたのさ。
で、その鍋がないもんだから、味がどんどん落ちてきてねぇ。客もよりつかなくなっちまって、俺もだん
だんしんどくなっちまってねぇ・・・あの鍋がもどりゃ~すぐにうまいものぐらいつくってやるよなんて、ず
っとくやんでたんだなぁ。
そうしたら、夢を見たのさ・・・」
あの鍋でうまいもんをつくる夢をさぁ・・・
鍋男はそう小さな声で呟く。
「そうしたらよ・・・朝起きたら、急に体がおもくなりやがって、気がつけばあれよあれよという間にこの
姿さ・・・。でも、悪くはないぜ。これで俺がいるかぎり、いくらでもうまい料理がつくれるってもんさ。
ふふふ、まぁ、もう味なんてわかりゃしないんだけどよ・・・いいのさ、俺が俺で料理できるのさ・・・」
鍋男は満足そうにつぶやいた。
確かに味はいい。
ふかふかしたまんじゅうの皮、汁気たっぷりの餡もたまらない。
「えへへ、そんなにうまそうに食べてくれるお嬢さんは久々だなぁ~作りがいがあるってもんさ」
鍋男はそういって、体を揺らして笑った。
「まんじゅうや、煮猪脚をつくるなら、人間の姿のほうが楽ではないのですか?」
彼女はまんじゅうを食べる手を止めた。
「それがよお、商売がうまくいきはじめたときにいい鍋を買ったのさ。熱すりゃ、すぐにあったまるし、
温度管理も自由自在。なんてったって、思い通りの味以上のものをつくってくれるいい鍋だったんだ
よ。でもよ~こともあろうに、壊れちまってね。新しく違うのを買ってみたものの、うまくつくれないんだ
よ。こまってね~こまってね~、あの鍋がまたほしいってずっとおもってたのさ。
で、その鍋がないもんだから、味がどんどん落ちてきてねぇ。客もよりつかなくなっちまって、俺もだん
だんしんどくなっちまってねぇ・・・あの鍋がもどりゃ~すぐにうまいものぐらいつくってやるよなんて、ず
っとくやんでたんだなぁ。
そうしたら、夢を見たのさ・・・」
あの鍋でうまいもんをつくる夢をさぁ・・・
鍋男はそう小さな声で呟く。
「そうしたらよ・・・朝起きたら、急に体がおもくなりやがって、気がつけばあれよあれよという間にこの
姿さ・・・。でも、悪くはないぜ。これで俺がいるかぎり、いくらでもうまい料理がつくれるってもんさ。
ふふふ、まぁ、もう味なんてわかりゃしないんだけどよ・・・いいのさ、俺が俺で料理できるのさ・・・」
鍋男は満足そうにつぶやいた。
2009年06月27日
ICS
彼女は鍋男を見つめ、唇をかんだ。
「きにするなよ、俺はこれでいいんだ。ふふふ、まぁ、妄人なんて、妄人になってくやんでるやつなんていないさ」
鍋男はそう言って、彼女にまんじゅうを勧めた。
「しかし、なんで、こんなとこまではいってきたのさ。この通りに人なんて珍しい」
彼女はbarでの話をして、鍋男のことだろうとつぶやいた。
「そんな女はしらねぇな・・・・・・・・・・・ん・・・・・」
鍋男はふっと、自分の左手のほうへ目をやった。
「あれかもしれねぇなぁ・・・」
声音の低さに、彼女は背筋にすうっと、冷たいものが走る。
「・・・・・そこのICSへ行って来いよ。たぶん、その女の言ってる場所はそこのことだとおもう」
彼女は立ち上がり、ICSとかかれた、大きな看板を見上げる。
ネオンで彩られたそれは綺麗だが、奥は真っ暗だ。
ここへはいるの・・・・?
足を進めると進入とかかれた、青い掲示板がある。
彼女は少し異質なその空間へ、恐れをいだきつつもはいっていった。
http://slurl.com/secondlife/kowloon/117/79/24
「きにするなよ、俺はこれでいいんだ。ふふふ、まぁ、妄人なんて、妄人になってくやんでるやつなんていないさ」
鍋男はそう言って、彼女にまんじゅうを勧めた。
「しかし、なんで、こんなとこまではいってきたのさ。この通りに人なんて珍しい」
彼女はbarでの話をして、鍋男のことだろうとつぶやいた。
「そんな女はしらねぇな・・・・・・・・・・・ん・・・・・」
鍋男はふっと、自分の左手のほうへ目をやった。
「あれかもしれねぇなぁ・・・」
声音の低さに、彼女は背筋にすうっと、冷たいものが走る。
「・・・・・そこのICSへ行って来いよ。たぶん、その女の言ってる場所はそこのことだとおもう」
彼女は立ち上がり、ICSとかかれた、大きな看板を見上げる。
ネオンで彩られたそれは綺麗だが、奥は真っ暗だ。
ここへはいるの・・・・?
足を進めると進入とかかれた、青い掲示板がある。
彼女は少し異質なその空間へ、恐れをいだきつつもはいっていった。
http://slurl.com/secondlife/kowloon/117/79/24
2009年06月28日
休息
人とは思わぬところで、強い想いを抱えている。
強い想いをふくらませ、妄想となる・・・。
そして、その妄想をkowloonは肥大させて、邪気を含ませて、食らうのかもしれない・・・。
ICSに棲む妄人をみて、彼女は震えが止まらなかった。
自分も何かにとらわれて、ああなってしまったらどうしよう?
妄人らはみな、これで満足だというが、人から妄人になる間に邪気によって感情を替えられているとしたら・・・
それは元の人の考えとは別物になるのではないだろうか?
意図せずとらわれ、感情を替えられ・・・
少しの間、部屋にこもろう。
彼女は考えをまとめるために、針仕事に没頭することに決めた。
強い想いをふくらませ、妄想となる・・・。
そして、その妄想をkowloonは肥大させて、邪気を含ませて、食らうのかもしれない・・・。
ICSに棲む妄人をみて、彼女は震えが止まらなかった。
自分も何かにとらわれて、ああなってしまったらどうしよう?
妄人らはみな、これで満足だというが、人から妄人になる間に邪気によって感情を替えられているとしたら・・・
それは元の人の考えとは別物になるのではないだろうか?
意図せずとらわれ、感情を替えられ・・・
少しの間、部屋にこもろう。
彼女は考えをまとめるために、針仕事に没頭することに決めた。
2009年07月01日
夜あるく・・・1
なんだか蒸し暑い・・・
彼女はのどの渇きを覚えて、1階のマスターのところへ行ったが、誰もいはしない。
マスター3日もいない・・・。
部屋にこもりっきりだったせいか、なんだか、体が重い。
頭もひどく鈍い。
涼しい風にあたりたくて、彼女はゆっくりと九龍大飯店を出た。
生ぬるい風・・・
それを吹き消すように彼女は歩きだす。
爽やかな風を求めて・・・
「あら、邪気にあたったの?顔色悪いわよ」
白いシャツの小柄な少女が彼女に声をかけた。
「そうに違いないね、きっと、そうだよ。ひどい顔だ」
なぜか、学ラン姿の少年がそう言って、彼女に手を貸した。
「寒いの?暑いの?人によって症状は違うのよ。落ち着ける場所があるなら言って頂戴」
少女の鈴の鳴るようなやさしい声に、彼女はか細い声で呟いた。
涼しい風にあたりたい・・・・
それから、彼女は覚えていない。
2009年07月02日
夜あるく・・・・2
ぼやんっとした赤いものが宙で揺れている。
赤いというよりも、朱色というべきだろうか。
ゆらん、ゆらんっと揺れる姿はまるで毬のよう・・・
「目を開けたよ」
「そうだね、目を開けたよ」
覗き込む二つの顔。
どちらも、幼さが残っている。
冷たい風がさああっと、右手から流れてくる。
心地よく、さわやかな風だ。
彼女はその風に目を細めながら、ゆっくりと起き上がる。
ああ、ぼんぼりか・・・
朱色の毬はぼやんっと、温かな明かりで目にやさしい。
ネオンばかりみていた彼女には目新しく、そして、やわらかく感じた。
「邪気にやられたのね」
「うん、きっとそうだよ」
二人はそううなづき合い、彼女を椅子に座らせてくれた。
彼女はそうではない、自分は部屋にこもっていたから、そのせいだろうと彼らに言った。
「馬鹿だなぁ、部屋の中だってkowloonじゃないか、こもってたからって、邪気がこないとは限らないよ」
少年は彼女の髪を整えながら、笑う。
そうだ・・・ここはどこもかしこも島の一部なのだ・・・妄人になりたくないとこもっていても同じなのだ・・・
彼女は馬鹿らしいことをしていたものだと思った。
http://slurl.com/secondlife/kowloon/207/133/31
赤いというよりも、朱色というべきだろうか。
ゆらん、ゆらんっと揺れる姿はまるで毬のよう・・・
「目を開けたよ」
「そうだね、目を開けたよ」
覗き込む二つの顔。
どちらも、幼さが残っている。
冷たい風がさああっと、右手から流れてくる。
心地よく、さわやかな風だ。
彼女はその風に目を細めながら、ゆっくりと起き上がる。
ああ、ぼんぼりか・・・
朱色の毬はぼやんっと、温かな明かりで目にやさしい。
ネオンばかりみていた彼女には目新しく、そして、やわらかく感じた。
「邪気にやられたのね」
「うん、きっとそうだよ」
二人はそううなづき合い、彼女を椅子に座らせてくれた。
彼女はそうではない、自分は部屋にこもっていたから、そのせいだろうと彼らに言った。
「馬鹿だなぁ、部屋の中だってkowloonじゃないか、こもってたからって、邪気がこないとは限らないよ」
少年は彼女の髪を整えながら、笑う。
そうだ・・・ここはどこもかしこも島の一部なのだ・・・妄人になりたくないとこもっていても同じなのだ・・・
彼女は馬鹿らしいことをしていたものだと思った。
http://slurl.com/secondlife/kowloon/207/133/31
2009年07月03日
大成廟
別れ際に彼らは彼女にこうつぶやいた。
邪気にあてられたら、大成廟へいくといいよ。
邪気を中和してくれるんだ。
九龍大飯店の近く、青龍路の方向だ。
自分の身を置く場所の近くにあったにもかかわらず、彼女は気付かなかったことに悔んだ。
赤いお堂はひどくこの街臭いが、しかし、なぜだか異質にも感じる。
色のせいだろうか?
赤い外観、中に張られたお札の数々・・・天井からつり下がっている香・・・。
潮のにおいと、延々と焚かれている香の香りで頭がすうっと冴えてくる。
深呼吸を何度か繰り返すと、ほとんど人もきそうもないのに香がずっとたかれている理由がわかった。
香炉の妄人か・・・
向かって右手の大きな香炉に精悍な男性の顔が埋まっているように見える。
無口なその風ではそろそろ物になるのも近いのだろうか?
「あ、あの・・・」
「邪気を吸いすぎたね。少しゆっくりしていくといい」
香炉男は目だけでじろっと、彼女を見てそう言った。
http://slurl.com/secondlife/kowloon/125/42/24
邪気にあてられたら、大成廟へいくといいよ。
邪気を中和してくれるんだ。
九龍大飯店の近く、青龍路の方向だ。
自分の身を置く場所の近くにあったにもかかわらず、彼女は気付かなかったことに悔んだ。
赤いお堂はひどくこの街臭いが、しかし、なぜだか異質にも感じる。
色のせいだろうか?
赤い外観、中に張られたお札の数々・・・天井からつり下がっている香・・・。
潮のにおいと、延々と焚かれている香の香りで頭がすうっと冴えてくる。
深呼吸を何度か繰り返すと、ほとんど人もきそうもないのに香がずっとたかれている理由がわかった。
香炉の妄人か・・・
向かって右手の大きな香炉に精悍な男性の顔が埋まっているように見える。
無口なその風ではそろそろ物になるのも近いのだろうか?
「あ、あの・・・」
「邪気を吸いすぎたね。少しゆっくりしていくといい」
香炉男は目だけでじろっと、彼女を見てそう言った。
http://slurl.com/secondlife/kowloon/125/42/24